- interview -

聴いてくださる方を意識するような作り方

── 今回は前アルバム(『37.2℃』)から二年ぶりとなりました。 販売のフォーマットが全世界配信になって、イロメガネに初めて出会える可能性も増えたと思うんですけど、そうした理由はどういったものだったんでしょうか。

日本の音楽を遠く離れた人に届けられるツールっていうのはとても武器になると思ったんです。 海外の人がDMをくれたりとか、通販で取り寄せてくださったりすることがあって。 戸川純さんとか大森靖子さんが好きで、イロメガネのこともすごく気に入って下さってる海外の方もいらして、以前ふじーさんがやってくださったインタビュー(『37.2℃』リリース時のもの)も和訳して読んでくれていたりしたんです。

── それはすごい!

ただただたくさんの人に聴いてもらうより、イロメガネが好き!っていう一人がいるんだとしたら、そういう人を大切にしたいと思って。

── リリースの間の楽曲制作はどのようなものだったのでしょうか。

収録曲で言うと、「今日もまた、ごめんね」はアコースティックで書いたり、リード曲の「可愛い彼女が浮気してるみたいだけど、グーパンチはやめて掌底を喰らわそう」(以下「掌底」)って曲を作ったり、他にも映画音楽やプロレスの入場曲とかを制作したりしていました。 前からあったフレーズをイチから作り直す作業も今回は多かったです。 ワンフレーズ分だけあったものだったり、世に出さないで溜めている曲が百数十曲あるので…。笑  形になっていないものを形にする作業をしていったんですよね。歌詞を付けたりとかもそうです。

── 歌詞で言うと、全体的にポジティブな印象を受けて。 そこに今のイロメガネの思いがこめられてるんじゃないかなって思いました。

歌詞はかなり作り直しました。もともと歌詞が無かった曲もありましたし。 例えば二曲目の「駄々」は、“やめたい やめたい”っていうリフレインしかなくて、そこに”やりたい やりたい“っていう歌詞をつけたことで曲が完成したりしたりして。 どうしたら一つの物語として納得いく形で着地できるのか、今回はそこに時間をかけました。

── そのお話にも通じるんですけど、今までのイロメガネは痛さとか辛さとかやりきれない思いを音楽に落とし込んで聴かせてくれた感じがしていたんです。 でも今回はその先の、"でもわたしは……!"っていう強さが見えた感じがしていて。

確かに曲はポジティブになりましたね。笑  自分のためだけに消化していたような曲が減っていて。 お客さまに向けて初めて作った「tictac」っていう曲だったり、楽しんでもらうために作った「掌底」だったりと、聴いてくださる方を意識するような作り方が増えたんだと思います。 お客さんとしてライブを見てたり、ニュー昭和万博(自身が所属する歌謡バンド)をやってるときに、お客さんを乗せるための音楽って需要があるんだなって思って、そこに自分も迎合できるんだっていう意識が少しずつ強くなってきたので、それが無意識に出てきているんだと思います。

── その曲作りの意識はイロメガネにとって新しいものですよね。

そうですね。だけどそういうものも必要とされている上で、私の中では私の音楽の主流として成り立っていてほしくない気持ちが本当はあるので、色んな楽しみ方をご提供しつつ間口として示して、その中でも自分の言いたいことを、ライブやアルバムの中でいかに提示できるかということは気にしています。 ライブでも、様々な系統のセットリストの中にも一曲、「私のニュース」や「思春期」といった自分にとってはシリアスであるような人生観をお見せできる曲を入れるっていうことは絶対に譲りたくないんです。

強くあろうとすることは弱さを認めること

── 楽しんでもらうことを重点に置いた「掌底」がリード曲にもなっていて。

「掌底」は友達の出来事を聞いて書いた曲なんですけど、一応フィクション……というか半分フィクションくらいな感じで捉えていただきたいなって。笑

── プロレスがテーマになった曲ですが、いつのまにかプロレスにハマっていらして。

めっっっちゃハマってるんです!!二年前の夏くらいから。 (プロレスが好きという)公言はしてなかったんですけど、途中からもう漏らしていこうと。好きなものを好きって言ってもいいかって思って。 そうやって発信したおかげで何人かプロレスラーの方とお知り合いにならせていただいたり、自身のライブにご招待させていただけたこともあったり…。

── そんなキャラだったっけ?ってビックリしました。笑

強くなろうとしている姿がとっても格好よくて好きになったんです。 プロレスラーの人がベルトを保持し続けることってとても難しいことなんです。 試合だけじゃなくてストーリーだったり生き様だったり、勝つために毎回頑張って、やっと勝ててもまた負けてタイトルを奪われて挫けても、また頑張って……っていう流れを知ったときに本当にハマりました。 この人はなんで泣いてるんだろう?とか、この人はなんでこのタイトルにチャレンジするんだろう?っていう一連の流れを見ていると感情移入できて、励まされます。 印象的だったのは、プロレスラーって怖いってイメージがあったのですが、お会いさせていただいたどのプロレスラーの方もとても優しくて心も体も強かったです。 この間お会いさせていただけた小橋健太さんというプロレス界の生き神様のような、鋭くて、生き様同様まっすぐすぎるようなファイトスタイルの方がいらっしゃるのですが、「僕は弱いから強くなろうとしています」っていう話をして下さって。 それを聞いて、強さってなんだろうと考えさせられましたし、強くあろうとするってことは弱さを認めることなのかなぁって。



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